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2024/01/31

2023年チャンピオン 根本郁弥インタビュー

根本郁弥という料理人の存在を全国に知ってもらえた!

2023年「CHEF-1グランプリ」で優勝されて、どんな変化がありましたか?

僕が働いている『ガストロノミー “ジョエル・ロブション”』では、ジョエル・ロブション氏と料理長である関谷健一朗が注目されることが多いです。ですが、今回優勝したことによって、お客さんから「根本さん、いますか?」というようなお声がけをいただき、挨拶させていただくような機会が増えました。多くの方に、根本郁弥という料理人がいるんだということを知っていただけた、というのが大きな変化です。料理人としての一歩を踏み出せたのかな。いい意味で、いい料理を出さなくちゃいけないというプレッシャーも強くなりましたね。

お客さんにサインを求められたりもしましたか?

そうですね、初めてサインしました(笑)。関谷シェフの方がいいのでは?と思ったのですが、僕のサインがほしいと言っていただいたので、名前の横に「CHEF-1 2023」と書き込んで、関谷シェフのサインとも合わせて、メニュー用紙にサインしました。貴重な経験でしたね。

優勝されたあと、日常の業務にすぐ戻られたのですか?

ちょうど「CHEF-1グランプリ決勝戦」放送日の翌週に、ジョエル・ロブション氏の右腕となるシェフが来日される予定もあり、その後はクリスマスに突入したので、すぐに切り替えなくてはいけませんでした。駆け足状態で業務に戻りましたね。家族とは会社の福利厚生制度を利用してクルーズディナーに行く時間は取れたのですが、まだ旅行とかには行けていません。せっかく賞金もいただきましたし、今年こそ、落ち着いた時期に1週間くらいかけて子供たちや妻と行きたいと考えています。

「CHEF-1グランプリ」は 自分だけの「一皿」を作れる場所

優勝から少し時間も経って、改めて振り返ってみると、根本シェフにとって「CHEF-1グランプリ」とは何でしたか?

自分の料理技術、知識、料理観、そうしたものを何のしがらみもなく存分に試せる場所だなと思います。僕の場合、普段お店では上司の関谷シェフと「こういう料理を作ろう」と相談をしたり、アドバイスをもらって作ることが多い。それに対して、自分の中の料理観、自分だけの引き出しで、自分の一皿を作るという経験、挑戦ができる場でした。それゆえに自分が成長できると思いました。加えて「CHEF-1グランプリ」のすごくいいところは、多ジャンルのシェフが集まっての大会だということですね。

自分と違うジャンルのシェフと戦うのはやはり刺激になる?

たとえばフランス料理のコンクールだと、当然フランス料理のシェフしかいませんし、やはりフランス料理の知識しか出てこないと思います。だけど「CHEF-1グランプリ」では、中国料理、イタリアン、日本料理、それからフードクリエイターやジャンルレス……、いろんなジャンルの料理人たちが出場して、身近に隣で感じることができます。みんな勝ちたいので本番中はもちろんピリピリもしているんですけど、戦い終わったあとに打ち解けあって、それぞれが自分の作った料理の意味を話したりした時間は印象的でした。それぞれの料理論を話したり、今回は何をコンセプトにどういう料理を作ったのか、とか。いろんなジャンルの人と交流できるのは「CHEF-1グランプリ」ならではの醍醐味だと思います。

特に気をつけていたのは“香り”と“温度”

今回の優勝に勝因があったとすれば何だったと思いますか?

僕が今回特に気をつけていたのは、“香り”と“温度”なんです。人間の記憶で一番記憶に残るものって香りなんですよね。ですが、料理として出てくるときには意外と香りが飛んでいたりするんです。一番いい香りがするのは、僕は調理中だと思います。焦がした香ばしい香り、甘い香り……、調理中にその食材の一番いい香りを出している。でも、コンクールでは、試食時間までの待ち時間とかもあって、温かい料理でも少し冷めたり、思ってもいない温度になることもあります。僕は誰よりも温かいお皿を出したいという思いがあったので、お皿の下にオーブンで温めた石を入れたり、とにかくベストな温度で食べていただけるようにしたのが自分の中では大きかったかなと思っています。

2023年の大会を通じたテーマ「料理に革命を起こせ」についてはどう感じましたか?

既存の料理に革命を起こすっていうのは、実にみんな頭を悩ませた点だと思います。そこですごく試行錯誤をして、型を破ろうとするわけです。そのために料理の歴史や、その料理がなぜできたのかを調べたり……。いろいろ模索して新しい発見をする、クリエイトされるというのはすごくいいことだと思います。お題については、ある程度振り幅があって、その中で個性を出せるテーマだと、みんな楽しみながら、面白い料理を出せるのかなとも思います。

「CHEF-1グランプリ」が他のコンクールと少し違うのは、アイデアが非常に大事というところかと思います。根本さんの料理のアイデアというのは、いつどうやって生まれるものなのですか?

意外と日常の失敗とかですね。たとえば、火を入れ過ぎたのだけど、「意外とこの方が美味しいかも」みたいなことがヒントになったり。日々やっていることの延長線上で閃いたりします。もちろん、料理は試作を重ねてだんだんと完成度や精度が上がっていきます。途中でもがいたり苦しんだりしても、いい料理ができると感動したり、自分の中で満足できる。それで審査員のシェフに「いいアイデアだね」と言われたら最高ですね。

「CHEF-1グランプリ」には調理時間の制約もかなりあります。他の大会よりも調理時間は短めかなと思いますが、その点はどう受け止めていますか?

そうですね。その制限時間内で、どう短縮したら美味しくできるかというのはすごく考えました。今回で言うと、たとえば、短時間でエビのソースを作るというのはやはりすごく難しいんです。そこで桜エビなどの小さく味がしっかりしているものをそのまま炒めて潰してやるととても味が出るだとか。僕は頭の中で料理を作ることがけっこう多くて、そうした脳内調理がアイデアに繋がっていきます。

自分の武器をどれだけ研ぐかが大事なこと

今年また新たに「CHEF-1グランプリ」へ挑戦するシェフたちにアドバイスをするとすれば?

自分の武器をどれだけ研いで研いで、鋭く尖った武器にするかが大事なのかなと思います。その人の個性が出ている料理じゃないと審査したときも気付いてもらえない、「この人の料理なんだ!」と思えるぐらいのインパクトがいる。記憶に残る、そういう料理を出せるくらいまで個性を尖らせることですね。一緒に戦ったジャンル別ナンバーワンのシェフたちは、みんなちゃんとした武器を持っていました。そして当然ですが、まずはエントリーすること

エントリーすることによってすべては始まるわけですね。

コンクールとかって、エントリーしないと何も始まらない。一歩踏み出して、自分を試して、料理人として自分をみんなに知ってもらう。将来活躍したいと思っている人はぜひ出て、自分の名を売っていってもらいたいなと思います。あと、実践的なアドバイスを一つすると、ルールブックをよく読むことも大事です。先ほどの時短の話もそうです。たとえば「CHEF-1グランプリ」では調理時間が短い代わりに、ケチャップとか既製のソースが使えたりします。この要素は必要だけど、わざわざ作るほどではないなとか。そこで使えるものは使ってアレンジしたり、時間を作ったりして、要は何に重きを置くかで完成度も違ってくるはずです。

チャンピオンになられての自負、そしてこれからの新しい一歩、目標は?

僕は最初横浜で3年間働いて、その後『ガストロノミー“ジョエル・ロブション”』に移りました。入社してから、先輩や上司の方から色々な技術を教えてもらい、10年間ほど働く中で、僕の中の引き出しや知識も増やしていただいた。そして色々な教えが積み重なって、現在の関谷シェフのもとで一つにまとまりました。今回の大会では何より、そうして積み上げてきたものが正しかったと、証明できたという感慨があります。その上で、それに奢らず、これからもチャンピオンの名に恥じないような料理を作っていきたいなと思っています。

さらなる将来的展望もありますか?

関谷シェフのもとで、まだ超えられていないこと、吸収しきれていないことが多々あるので、まだこの『ガストロノミー“ジョエル・ロブション”』で働きたいと思っています。ただ、今回の「CHEF-1グランプリ」で優勝したことにより、様々なお仕事のお声がかかることもあると思います。それに向けて、いつ誰からお声がかかってもいいように、自分の中の技術をさらに研ぎ澄まして、今後に向けて準備していきたいです。いずれは自分のお店を出せると良いですね!