大きく変わったことは2つあります。1つ目は周囲からの評価、反応がすごく変わりました。私の応募動機でもあったのが、「フードクリエーターの肩書の説明にある、飲食店に立たない料理人ってどういうこと?」とよく聞かれていたことでした。それが、テレビを通して丁寧に取材をして紹介いただいたことで、「あ、こういうことをやっていたんだね!」「そんなふうに企業さんと食品やレシピの開発をしていたんだね!」と理解が深まったと感じます。今まで一緒に仕事をしてきた方とか、私の仕事が料理をすることだと何となく知っていた方も、「あの『CHEF-1グランプリ』で評価された人なんだよ」と、人に紹介しやすくなったと聞いています。
そうですね。今まで全く知らなかった方から、InstagramとかXのDMでお仕事の依頼が入ったりします。私は鹿児島の出身ですが、地元のテレビや新聞社さんに取り上げていただいたり、九州でお声がけをいただくことも増えました。八女茶の産地である福岡県の八女市や、宮崎県の西都市で農家さんを束ねている団体から、それぞれイベントとメニュー開発、地域のものを使ったレシピ開発などの依頼をいただいています。お声がけいただけるのはすごくうれしいので、どれもしっかりやっていきたいと思います。
何より番組の中であの“お茶ラーメン”を生み出せたことが、自分の料理経験として、すごく大切なターニングポイントになりました。自分1人で商品開発をしていても、なかなかあそこまでは出せなかったなと思います。戦いの途中はけっこう苦しくて、プレッシャーとか、他のシェフに恥じないものを出さなきゃみたいな気持ちがあり、そういうのが集まって、ああいうものが生み出せました。自己紹介代わりのひと品ができたなと感じています。今、お茶ラーメンをどう広げていこうか考えていて、いろんな人に相談するのですが、すごく親切に自分事のように喜んで協力してくれる人がいます。自分の生み出したコンテンツを軸に、人とのチーム感が高まっているような印象です。
私は飲食店での修業を挫折してしまったから、今の働き方になってしまった……という、後めたさとか少し悔しい気持ちをずっと持っていたんです。でも、この大会を通して、自分の強みを認識できたし、考える機会にもなりました。たとえば、肉を焼く技術では山下シェフに勝てるわけがないですし、それぞれのシェフには強いところがあるので全部で勝てるわけではありません。ただ、料理を論理的に考えて組み立てていくところ、お題に対してメニューを考える力だけは他のシェフにも負けないところだなと感じることができたし、自信を持つことができるようになりました。
あんなにすごい審査員の方々に自分を認識してもらえたのは、「CHEF-1グランプリ」がなければ絶対になかったので、本当に貴重な機会でした。あの審査員の方々に食べてもらえるというのが、モチベーションでもあり、また次も出たいなという気持ちになっています。審査員の方々とは、大会のあとも、SNSを通してやり取りしたり、noteで書いた記事を読んでくださったりしています。成長を見守ってくれる存在に豪華メンバーが加わって、自分の人生にこんなことがあるんだ!って驚いています。
実は、3回戦の「口中調味トムヤムクン」と準決勝の「和牛とバニラの出会い」、それと決勝第二試合の「カニと柑橘のお茶ラーメン」では、自分の考えも少し変わっています。最初の2つに関しては、「革命ってなんだろう?」という定義付けをしっかりするところに時間を使っていて、審査員の方々の特性も踏まえて細かい作戦を立てています。たとえば、フレンチっぽいもので突き詰めても私よりフレンチに詳しい人なのだからびっくりしないだろうとか、一流の料理人なので食べたら何が入っているか口の中で分析できちゃうだろう、だからバレない調味料にしようとか。その上で、口中調味は2年くらい自分のテーマとして研究していたことだったので、戦いに見合った自分の武器を取り出したというところです。
「和牛とバニラ」まではテーマとなっている“革命”という点で面白いと評価してもらえました。でも、一言目に「美味しい」って言ってもらえる料理じゃなかった。それが自分の大きな反省点でした。このままではフードクリエーターという枠から抜けられない。料理人として戦うのだから、相手に美味しいと言わせなければ!とけっこう悩みました。最終的に、革命は絶対起こさないと私は他のシェフに勝てない、でも、絶対に「美味しい」とも言わせるんだという強い気持ちが生まれた。それが成長につながったと思います。
近くで一緒に調理をさせていただいて、手つきとかスピード感とか、道具の管理、たとえば包丁の切れ味がめっちゃよさそうだったりとか、それぞれプロ意識がすごいなと感じました。私は必要な調理用具を全部持ち込んでいて、それはいつもと同じ状況で調理をしたいという私の作戦でもあるんですが、他のシェフは、最小限の持ち物でどこでも自分の料理ができるんだなと、とても感心しました。
一つは、インスタントラーメンというお題だったので、インスタントが生きる食材を使いたいなと強く思っていました。お茶の料理ってお茶漬けのイメージが強いですが、お茶は短時間でアミノ酸を抽出できる素材なので、そこが面白い。そこから「面白いだけじゃなくて一言目で美味しい料理を」という視点で、日本人だったら絶対嫌いじゃない、好きな食材の組み合わせを考えました。ラーメンとしては食べたことはないんだけど、どこか懐かしさもあるもの。そのときに、お茶は最適解だと思いました。とはいえ、実際に作るといろんな課題に直面して、そこはもうお茶にするぞと決めて、いっぱい試作しました。
もともとコース料理をやってみたいとずっと思っていて、その締めの料理として出すというイベントを計画しています。私は商品開発を主とするフードクリエーターなので、まだどうなるかわからないですが、やっぱり商品化したいなと思っています。お茶って日本の財産だと思うのですが、私はもともと日本の農作物や農業を盛り上げたいというところから経歴がスタートしているので、それを広めるような商品開発をしていきたいです。
2つ話したいと思います。まず、フードクリエーターという飲食店に所属していない料理人として思うのが、レストランで日々調理をしていらっしゃる料理人の方と同じ土俵で戦える機会は他にないということ。今、フリーランスで料理人をしている人がけっこう増えていますが、「CHEF-1グランプリ」で評価してもらえるのは、そういう人にとってチャンスになるんじゃないかと思います。もう一つすごく面白いなと思ったのは、料理人の世界って、これまでの歴史というか、前の人たちがやってきたことの積み重ねが生きている世界という側面が強いなと思うのですが、「CHEF-1グランプリ」ではあのすごい審査員の方々が新しいものを評価してくれる。そういう風土というか空気感が生まれているのかなと思います。日本の料理界の中で、新しいものが生まれるところに一番近い大会ではないかなと感じています。
挑戦したいと思っています。大会を通して自分のことのように応援してくれた人がたくさんいて、そんなに喜んでもらえるんだとか、応援してもらえるんだと感じたことも、もう一度やりたい理由です。それと、追い込まれないと生まれない料理があるというのが、今回、成功体験としてあるので、またそういう料理を生み出せたらいいなと思っています。今、趣味で料理する人もたくさんいると思うんですけど、私としてはプロの料理人として戦うフィールドがあったことがすごくよかった。そしてチャレンジする意義になっていると思っているので、楽しい料理の番組というより、料理人の真剣な戦いの場として、これからも挑戦したいなと思います。